雄島とクジラ
「乗鯨神来」(鯨に乗って神が来る)
昔、雄島の神様が安島に来られる時、ノタ(波)に乗せていってくれと頼んだが「いやだ」と断られてしまいました。そこで、今度はクジラに頼んでみると、クジラは引き受けてくれ、雄島の神様は安島まで乗せて来てもらったといいます。
それで安島の人々がクジラを食べても、「じぶさま(じっさま)」は食べません。じぶさまというのは、大湊神社の神主の家のことで、かつて治部の役に就いていたことに由来するらしいのです。クジラは雄島の神様のお使いだから、これを食べると体がはれると言われています。
また別に、雄島はクジラが変わった姿であるとも……そう言われてみれば、何となく雄島はクジラに似ているような気がしないでもありません。

松平秀康公とクジラ
江戸時代、福井半初代藩主の松平秀康公が御参詣した折、それまで陣ヶ岡の地にあった能楽殿を安島に遷し、越の能楽をご覧いただいた。その後、舟で雄島を一周したところ、沖の方より数十匹の大きな鯨の群れが、舟を追って来ました。秀康公は雄島の神様は霊験ある御神であるともうされ、福井の城に帰って間もなく、(織田信長の時代に焼失した)雄島本殿の修繕と、御高20石の寄進を命じられました。
この話は、実際の史実とは異なるのですが、大湊神社の古文書に記載されている、雄島の神社再建にまつわる逸話です。(実際は福井半二代目藩主、松平忠直公の時に再建されました。)
鯨(クジラ)について
時折、安島の沖合でイルカが群れをなして跳ねているのを目にします。或る年の春の祭り前には、雄島の崖の下まで来ていて、黒い背びれを水面から出したり引っ込めたりしていました。
しかし昔はイルカどころかクジラもこの近くまで良く来ていたらしいといわれています。昔の漁師さんは、クジラを捕ることもあったとのことです。そもそもイルカとは、種類的にはクジラと同類で、小型のクジラがイルカと区別されるのです。
ところが、このクジラとイルカ、日本では扱いが違いように思えます。イルカは水族館ではショーをしたり、その頭の良さから人気者ですが、漁師にはかなり嫌われます。イルカが船に並走して走ると、魚が逃げてしまい仕事にならないというのが理由です。一方、クジラはいろいろな地方で豊漁をもたらすとされています。クジラは魚を陸や湾内に追い込むらしいのです。そこでクジラは日本各地でエビス信仰と結びつくのです。エビス神とは、七福神の中でタイを抱えた神様です。おまけにクジラはその体に無駄なものがないと言われます。肉は食用になり、ヒゲはゼンマイに、油も使われ、これも人々から喜ばれる理由です。